コラム4
書評「ファインマン物理学」シリーズ
2010年11月28日作成

 だいぶ間が空いてしまいました。今回は自分が感銘を受けた本を紹介するコラムを書いてみたいと思います。

 紹介するのはわざわざここで紹介するまでもないであろう名著、「ファインマン物理学」です。「だったらするな」という突っ込みはなしです。この本を敢えて紹介します。著者やこのシリーズに関する紋切り的な説明は、例えばここ(Wikipedia)やここ(Amazon)を参照してください。

 結論から言うとこの本(シリーズ)は初めて大学で物理を学ぶ人には不適切だと思います。が、他書や授業などで一通り勉強した人がさらに深く勉強したい場合に最適な本です。しかしこの本の本当にすごい所は、そういった物理の勉強に使えると言った所だけに留まりません。

  「天才が身近に感じられる本」・・・敢えてそんな風にこの本を紹介します。

 このシリーズでは、紹介されるほとんどの物理現象、数式に対して、ファインマンなりの定性的な考え、しかも平易な説明がなされています。その記述は高校生にもわかるようなものもあります。一つの法則の証明、紹介でも、それを用いた様々な事例、思考実験結果が紹介されています。

 ファインマンと言えば、量子電磁力学の研究でノーベル物理学賞を受賞した天才物理学者です。僕がこの本に出会う前にイメージしていた天才は、「数式をさらっと見ただけですべてのことがさらっと理解できてしまうような人」かと思っていました。

 しかし、この本を読むとファインマンンも、あらゆる努力をして、自分の言葉で物理現象を理解しようとしたことがよくわかります。こういった思考、試行、努力を繰り返したからこそ、天才ができあがるんだと僕は思えるようになりました。現にファインマンは他書「Surely you're joking, Mr. Feynman」においても「私は具体的な例をイメージしないと、数式が表す一般論を全く理解できない」と述べていた、と記述されてます。

 「自分の言葉で物理現象を説明する」ということが、この本を最初に読んだときの自分には衝撃的でした。というのも、日本語の大学の物理学の教科書は概して薄く、物理法則の証明と簡単な適応例だけに終始しているものがほとんどです。記述も高校の数学の教科書のように温かみがない。それに対して、この本では詳しい説明、わかりやすい例え、さまざまな思考実験や試みといったすべての記述を通じて、「物事を論理的に考える」ことの本質を教えてくれます。

 著者は、「あることを理解しているかどうか」を、「その事象を平易に2通り以上の説明をきるかどうか」で判断したと言います。紹介される物理法則を使って身近な現象を説明したり、矛盾するような法則への疑問を解明してみたり、あたかも「物理は紙の上のものではなくて、これだけ身近なものなんだ」と説いているようにも思えます。

 このシリーズは物理の内容に限らず、物事の考え方が学べる本です。僕はこの本に出会って初めて、「(物理に限らず)勉強ってのはこうやるんだよ」「論理的に考えるとはこういうことなんだ」と教えられた気がします。当時、この本に救われました。僕が初めてこのシリーズを読んだのは大学の学部の2年の時ですが、そのあたり学年のの学生にぜひ一度読んで欲しい、取り組んでほしい本です。

 定期的に読み返したくなりますが、読むたびに新しい発見があります。