コラム2
博士課程学生のホンネ
2008年12月11日作成

 僕は前から博士課程現役学生の考え方ついて、興味がありました。どんな理由で、どんな情熱があってみんな研究や勉強に必死に打ち込んでいるのでしょうか。進学にあたって将来の不安など、なかったのでしょうか。

 2008年12月に横浜国立大学工学部および大学院工学府修士課程の学生向けの「博士課程進学説明会」で講演する機会があり、この時に知り合いにアンケートを実施してみました。

 アンケートは博士課程学生10人(男6、女4)の現役学生(Y大学、N大学、G大学、T大学)に行いました。学生の専門分野は工学、情報学、史学、脳科学に渡っています。できるだけ学生の生の声、本音を聞きたかったので、あえて山梨の直接の知り合いだけに回答者を制限しました。

 以下に実施したアンケートの回答(原文のまま)を掲載します。




Q1. 博士課程に進学しようと思った理由はなんですか?
  • 社会に出るのは博士課程の後でも可能だと思うが、一回社会に出れば二度とこう言う研究には戻れないと思ったから…
  • 技術者として働く場合に,博士を持っていた方が活躍できる幅が広がりそうだったので.
    特に外国人とやりとりするときは,相手の態度が違う.
  • 学会友達(先生も含む)とかができて楽しかった。
    グローバルに生きたい。
  • 修士までじゃ満足するようなもんじゃなかった。
    まだまだ勉強したい、とかもっと当時のことを知りたいとか。
    修士終わっても、「もういいや」って思えなかった(笑)
  • 自分の研究分野が面白くて、あんまり自分の研究分野に人がいなかったから。
    博士課程の方が自分が成長できるのではないかと感じたから。
  • 魔が差した。・・・と、周囲にはそう言って受け流していますが、実際は、「一つのテーマを自分の納得いくまでやり遂げるには2年という期間はあまりにも短い」という想いがありました。
  • 修士まででは「研究」した実感がなかったから。
    興味を持った仕事場に「博士」が必要である場合が多かったから。
    就職後に社会人学生として博士をとりたかったが、上司の運に激しく左右されることがわかったから。
  • 研究職を目指すため
  • 自分の今行っている研究が修士だけでは一段落がつかずまだまだ続けたいと思ったから.
    会社に行くよりも実力がつけられるかなと考えたため
  • 自分にしかできない個性を生かした職を見つけたいと思ったから


Q2. 博士課程に進学する前に進学に対する不安があったなら、教えてください。
  • 矛盾しているかもしれないが、社会に出て安定した職に就けるか不安だった。
  • 博士から新しい研究室で,3年で学位がとれるのか?
  • やっぱり収入。貧乏な生活はしたくない。あとは将来の不安定感。
  • 不安はありました。こんなにどっぷり文系(しかも歴史とか考古学)で、潰しはこれからもっときかないわけで。
    よく「社会復帰できないよ」とか言われるけど、もとから社会でてないしって開き直りました。そのぶん、腹もくくったさ。
  • あんまり深く考えなかったが、お金は少し苦労するかなと思いました。
  • 当然、就職に対する悩みを筆頭に、自分の能力に対する不安、経済的な不安、将来の不安(後述)など、とにかく一通り不安でした。
    その内のいくつかは、今でもです。
  • 就職できるのか?
    生活費はどうするのか?(奨学金だけでは足りないし、借金が増えるばかりだし、年金も長年免除申請すると損になるし・・)
  • 研究者になれるのかどうか
  • 博士課程終了後に本当に就職できるか、というより女性は卒業したら20代後半なのでそこからの人生(結婚とか出産とか)を考えると少し不安でした.
  • 学位取得が難しい分野なので学位がなかなかとれずドロップアウトするかもしれない
    大学に残って研究しているといってもぷらぷらしているのと変わらないので周りの評価が心配


Q3. 博士課程に進学してみて、良かったことは?
  • アメリカでの研究を始め、いろんなことが経験できたこと!
  • 自分のやりたいことが,やりたいようにできる.
    経済的な支援が意外と多い.
  • 比べたわけじゃないのでわからない。
    僕は何をやっても楽しいし、今が一番幸せだと思う性格なので。
  • やっぱり、修士の頃より突っ込んで勉強できたり、研究会もより高度なものに参加できたり。
    「参加するにはまだ早い」って言われてた研究会があったんだけど、ドクターに入れた記念で初参戦できたときは本当に嬉しかった。
    研究会が終わるとただののん兵衛の集団でしたが(笑)
    もう今では、フツウに参加し、しばかれてます。
  • 自分しかやってないことができること。
    日本国内、海外の素晴らしい方々に会えたこと。
    英語、論理的思考能力、プレゼン力等、絶対に自分は成長したと思えること。
  • 学会発表の名目で、海外に行けるというのは随分贅沢なことだと思います。
    自由な環境で研究活動が出来るというありがたみは、確かにあるのかもしれません
    が、実際は企業などで働き始めないとわかりませんね。
  • 専門分野の実情が見えてきた。
    自分の能力と興味の先、つまり本質が修士のころよりもわかってきた。
    自由に研究ができること
  • じっくり自分の研究に取り組めたこと.
    先生に本当に怒られて,自分の甘さを実感.
    成長したかなと思っております.
  • 自分の興味を持ったことを自由に研究できる
    学会の参加や発表が修士のときよりも意義のあるものとなった


Q4. 博士課程に進学してみて、悪かったことは?
  • たまに(特に研究成果が出ない時や暇ができたとき)、将来への不安と焦りを感じた。
    (同期や友達のほとんどが修士の後に、社会へ進出していたので、自分だけが取り残されたような感じ?!)
  • 大学に友達がいない...
  • 特になし。
  • まわりが結婚し始めたりすると、「おいおいおいらどうなるんだ」って思う。
    あとはやっぱり社会人と学生っていうステージの違いでしょうか。
  • 世間一般の人に遊んでいると思われること
  • 何だかんだ言って「学生」の身分ですから、フトコロ事情はやはり悪いです。
    同期に奢ってもらうとか、たまにありますが、非常に切ないです。
  • 年をとったわりに社会に貢献していない事実をつきつけられる。
  • 同期や友人が働いていることに対するプレッシャー
  • 貧乏だったので,華の時期を逃した気がする.
    周りはお給料もらってよい服着たり旅行してたりしてたもの. 
  • いい年して金がない


Q5. 現在、将来に対する不安があれば、教えてください。
  • 内定はもらっているが、どんどん悪化していく世界の経済の破たんで入社する前に会社が倒産(?)するのではないか?
  • 就職先があるのか!?
  • 大学の教員になれるのか。任期がなくなるのはいつか。
  • 結婚って、なんですか(笑)ってききたくなるくらい、縁遠くなってると思います。絶対そうデス(のだめ風)
  • 学生が長かったのできちんとした社会人になれるかな、という不安は少しあります。
  • 将来に対する不安は、たとえ何歳になっても、その時に何処で何をしていても、
    決して解消しない、死ぬまで付いて回るものと個人的に思っています。
    なので、自分の将来については進学を決意した時点で考えるのを止めました。
  • 卒業か、退学・就職か。就職できなかったらどうやって生きていくか。
  • 就職先が見えないこと
  • ちゃんと卒業できるのか!就職してもちゃんと仕事続けていけるのか!
    家事,育児の仕事と両立できるのか!という女性ならではの悩みがありますねぇ
  • 博士の就職率が低下して博士の価値自体が低下してしまうこと


Q6. 他に言いたいことなどあれば、お願いします。
  • 自由に生きたい。やりたいことをやりたい。ただそれだけで、今が楽しいから将来も大丈夫。
  • せっかくここまで来れたことだし、それが夢であるなら、なおさら頑張るしかないのです。
    いま、自分がいる場所は誰かの夢の場所だったかもしれない、そう考えると、もっと頑張れるような気がします。
  • 博士課程の学費は免除してほしいなと思います。
    あとマイノリティ志向の人なら博士課程も楽しいと感じれると思います。
  • 取らないと気になるけど、取ったところで食っていけるわけじゃない。
    「博士号は足の裏の米粒のようなもの」とはよく言ったものです。
    実際にドクターの世界に足を突っ込んでみて感じたのは、周りが言うほどそんなにお先真っ暗な世界ではなさそうだということです。
    これからの時代、もっとD卒に対してオープンな社会がやってくる(と、信じている)ので、もっと気軽にドクター進学というルートに興味を持っていいと思います。
    自力を鍛え抜くには多分いい環境ですので。
  • 健康を大事に



 以上がアンケートの回答でした。

 博士課程への主な進学理由は、研究に楽しみややりがいを感じていることと、自分を鍛えるという向上心によってであることがわかります。そして実際に進学してみて、それなりに博士課程生活を満喫していることがうかがえます(もちろんいろいろ悩みはあるでしょうが)。

 将来に対する不安が散見されますが、それは博士の有無に限らず、一生付いてまわるものです。大きな有名企業に就職したって(僕はそれが良いことと絶対思いませんが)、数年後はどうなるかわかりません。
 
 そして金銭面での悩みが少々見られますが、博士課程学生に対する経済面でのサポートはここ数年で急速に充実してきており、もはや修士卒で就職した場合と遜色ないレベルまで来ています。

 博士課程は研究の立案から実行、発表までを自分でするという過程により、専門能力だけではない総合力を鍛えられる絶好の場です。将来の不安などを感じている人もいます、そういった総合力を身につけた人材は今後ますます重宝されるようになると思います。特に海外とのやり取りでは、博士号の有無は致命的になります。

 真の実力を身につけた博士過程修了者の活躍の場が広がっていくことを僕は信じています。

 学生の率直な意見を見るのはなかなか楽しかったし、勉強にもなりました。本音の回答、貴重でした。アンケートに協力してくれた方々、どうもありがとうございました。